昨今政府や企業からの支援も増えてきているリスキリング。そもそも、経済産業省によると、リスキリングとは、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義され、単なる「学び直し」ではなく、「これからも職業で価値創出し続けるために必要なスキル」を学ぶ、という点が強調されている。
少子高齢化が待ったなしのなか、リスキリングを通じて一人当たりの生産性を向上させるため、政府や企業は支援に向けた動きを加速させている。政府は、育児中など様々な状況にあっても主体的に学び直しに取り組む人を後押しする制度を拡充していく意向を示している。また、女性の派遣スタッフ向けに生成AIの研修プログラムを始め、IT業界で働きたい女性のキャリア構築や派遣社員の時給引き上げに繋げようとするなど、リスキリング支援の拡充を進める企業も増えている。
では、育休中にリスキリングに励むことは可能なのだろうか。
今回は育休中に様々なリスキリングに励んだ女性2名にインタビューを実施した。
Aさん(30代/製薬業界/3歳娘&1歳娘の母)
Bさん(30代/IT業界/12歳息子&0歳娘の母)
育休中でも自分が頑張った、止まらずに成長していることを証明したい
Aさんは、2回の産休育休中の各9か月間で以下の5つの資格を取得した。
1. 医療経営士2級(1人目の産休育休中)
2. 英検1級(1人目の産休育休中)
3. 簿記3級(1人目の産休育休中)
4. ITパスポート(1人目の産休育休中)
5. MOS excel expert(2人目の産休育休中)
取得した資格の量とそのガッツに大変驚いたが、さらに驚いたのはAさんの産休に入る前の行動だった。なんと安定期に入ったころから働きながら子育てに奮闘する社内の先輩社員30名に復職後の働き方や産休育休の過ごし方について個人的に相談しに行っていたのだ。育休期間、MBA取得や会社で推奨されている資格取得(リスキリング)に励んでいた先輩方に刺激を受け、育休期間でも自分が頑張ったと思えるものがほしい、自分は止まっているのではないことを証明したい、という気持ちから資格を取ろうと思ったとのことだった。
どの資格をとるのかは、今後のキャリアを踏まえたときに必要になりうるスキルの中から選択したそうだ。常日頃から、自分がキャリアアップしていくために必要なスキルを洗い出し、それをサポートする制度が社内にあるかを確認していたことはやっていてよかったようだ。
復帰してから仕事と育児の両立に不安はあったが、先輩へのヒアリングで土日は十分子どもと一緒に過ごせることや、夫と過ごす時間も大切にすることで、メリハリをつけて仕事と育児とのバランスをとっていったそうだ。夫には試験の直前は子どもの面倒を見るなど全面的に協力を仰いだ。さらに英検対策のオンラインコミュニティに入り、毎週土曜の朝に面接対策を共にする仲間がいたことも、彼女にとって育休中の社会の接点となり刺激をもらえたそうだ。加えて、同時期に資格取得に向け勉強に励んでいた友人と勉強共有アプリを使って互いの状況を共有することで、切磋琢磨できたこともよかったと振り返る。
また、育休中だからこそのハプニングはつきものである。子どもがいつ起きて、いつ泣いて、いつミルクを欲しがるか予測不能であり、計画通りに勉強を進めることができず、それが過度なストレスとなり断念した人もいるのではないだろうか。Aさんは計画を日々立てるのではなく、実現可能な範囲で、週単位で余白を持たせた計画を立てていたという。子どもが寝ている時間=自分の時間、と決め、必要な家事は子どもが起きてから抱っこしながら進めるなど、メリハリを持たせることを意識したそうだ。
そんなAさんは2度目の育休から復職して1ヶ月が経った今、元々仕事で使う機会の多かった英語やExcelスキルを強化でき、キャリアに直接活きていると実感しているようだ。
思い込みを作らず挑戦すれば自分は意外とできるんだと自信に繋がる
Bさんは、2人目妊娠中に大学院に入学し、休学することなく2年間の在籍中に出産を経て、育児をしながらMBAを取得した。
Bさんは、夫が単身赴任から戻り長男の育児を夫婦で協力し合える体制になったことをきっかけに、前から興味のあったMBA取得に向け大学院を受験。そのタイミングで妊娠が分かった。当時は在学中に出産を経験した先輩が見当たらず、通うかどうか迷ったそうだが「やってみなければわからない。ダメだったら休学や退学を選択すればいい。夫がまた海外転勤になるかもしれないから今のうちに進めておきたい」という思いから、託児所やシッターを利用し2年で学位を取得した。一時的にお金はかかるが、それは自分の人生への投資の1つだと考えたそうだ。MBAを取得したことで年収アップが見込めることに加え、転職などの選択肢も広がるだろう。たとえ年収が変わらなかったとしても、様々な知識を獲得することでより一層働くことが楽しいと感じるだろうし、仕事だけに限らず人生の選択肢が広がると言った点で投資効果はプラスに転じると考えたそうだ。
そんなBさんに子どもともっとたっぷり接したいという葛藤は無かったのかと尋ねると、面白い視点から答えをくれた。
「もともと日本に多く存在していた農家は実質夫婦共働きであり、ご近所さんや街の人みんなで育てていたと思うのです。」
たしかに、子どもは母親がじっくりと向き合って育てるべきだという論調は意外と最近の話なのかもしれない、と筆者も気づかされた。さらにBさんは1人目の育児の際に心配で手を掛けすぎてしまい、子の挑戦に消極的になりすぎてしまったという経験や、小さい頃から色々な大人と会ってきた子どもはコミュニケーション力が高いと感じた経験から、育休中でも子どもをシッターに預けることへの葛藤はなかったという。
さらに、筆者も悩まされた、“育児中は何も計画通りには進められない問題”にはどう対応していたのだろうか。Bさんは子どもと一緒に、絵本ではなく課題図書であったファイナンスの本を読み聞かせていたそうだ。背景には大学院で学んだ本質の問いを見ることにあったと言う。子ども(特に乳幼児期)は絵本が読みたいのではなく、母親に相手してほしいのであり、それであれば自分が学びたい本を一緒に読めばいいのだ、と母と子の求めるベン図から重なり合った最適解を探しながら実践していったそうだ。
最後にBさんは、育休中のリスキリングを通じて、自分も周りからも難しいだろうと思われてきたことでも、やってみたらできるのだと自信に繋がったという。自分には無理かもしれないと予防線を張るのではなく、無理だと思ったときにシフトチェンジすればいいのだから、目の前にあるチャンスは積極的に掴んでいこう、そんな勇気をもらえるインタビューだった。
正解はない。自分のペースで進んでみよう
今回インタビューに協力してくださった2名に背中を押された人もいれば、自分にはそこまでのガッツはないかもしれない…と感じた人もいるかもしれない。
約1年の育休を経験した私は、育休中に何か学び直したいと思ったものの、子どもが起きていると自分のペースで学ぶことができず、中断されるたびにストレスが溜まり、勉強も育児も中途半端になってしまうことがあった。どちらも中途半端で疲労だけが蓄積されていた私は、子どもと共に親戚に会いに行った旅先で長く広い視野で人生を見つめてみることの大切さに気づいた。濃密に子どもとの時間を過ごしている親戚の姿を見て、これからの人生、仕事はずっと続くのに対し、猛スピードで成長していく子と濃密に過ごせるのは今だけだと、自分が後悔しない過ごし方を見つめ直すことができたのだ。
そもそも育休は育児のために仕事を休まざるをえない状況で取得するものである。
根詰めてリスキリングに励んだ結果、産後うつや不眠症となった女性も存在し、自分がどこまで能力開発を求めていて、精神的にも体力的にも余力があるのかを見極めることは非常に重要である。
そのなかで、仕事から離れる貴重な時間、自分はどんな過ごし方をしたいのか、是非周りと比較せず自分なりのペースでやりたいことにトライしてみよう。この記事を読み、そんな風に思う女性が一人でも増えていたら嬉しい。
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